本研究では、アゾベンゼン(AB)に代表される従来の光応答性の分子マシン以上に光異性化に伴って大きな構造変化を起こし、さらにABとは異なって熱安定性にも優れる(相対的に不安定なZ体の室温半減期 = 約1000年)、研究代表者らが新たに見出した分子マシンのヒンダードスティッフスチルベン(HSS)を用いて、DNAの構造(二重らせん構造や高次構造)と構造に由来する機能(配列情報の複製・転写や生体分子との相互作用など)を精密に光制御することを目的としている。 最終年度はDNAの構造制御について、【A】超分子相互作用の利用と【B】リン酸主鎖骨格への導入という2つのアプローチから取り組んだ。【A】超分子相互作用の利用は最もシンプルで簡便な方法であり、共有結合を介さずにHSSとDNA間の超分子的な相互作用を介してDNAを外から操作し、構造を制御する。負電荷を帯びたDNAのリン酸主鎖骨格と相互作用できる第4級のアンモニウムカチオンを両末端に有するHSSのE体を合成した。得られたHSSが多くの有機溶媒に不溶な一方で水に可溶なこと、水中でも可逆的に光異性化できること、80 °Cでも熱異性化しないことを確認した。さらに、DNA二本鎖の水溶液に合成したHSSのE体を添加した後、UV光照射によりHSSを異性化させると、二本鎖が解離する温度(Tm)をわずかに変えられることがわかった。【B】リン酸主鎖骨格への導入では、共有結合を介してHSSをDNAのリン酸主鎖骨格中に導入し、DNAの構造を制御する。領域内の共同研究者と協力することで、HSSのDNAのリン酸主査骨格中への導入とUV光照射によるTmの変化を確認することができた。
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