研究領域 | 分子サイバネティクス ー化学の力によるミニマル人工脳の構築 |
研究課題/領域番号 |
21H05886
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 大介 九州大学, 芸術工学研究院, 助教 (40869765)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞骨格 / 分子ロボット / ナノテクノロジー / アクチン |
研究実績の概要 |
本研究では、ミニマル人工脳の構築に向け、脂質膜のコンパートメントであるリポソーム内で、爆発的に成長するアクチン繊維ネットワークを再構築し、軸索構造をもつリポソーム(神経細胞型分子ユニット)を合成することを目指す。 初年度はアクチン繊維の動的挙動を観察する全反射蛍光顕微鏡(TIRF)を開発し、アクチン繊維ネットワークを構築するため、アクチン関連タンパク質存在下におけるアクチン繊維の伸長挙動を評価した。爆発的に成長するアクチン繊維のネットワーク構築に必要な4種類のタンパク質(プロフィリン、WASP-VCAドメイン、Arp2/3複合体、キャッピングプロテイン)は、それぞれ機能することが確認された。しかし、このうちキャッピングプロテインに関しては、当初の想定よりも活性が低く、アクチン繊維ネットワークを爆発的に形成させるためには不十分な活性であった。この問題を解決するため、より高い活性を有するキャッピングプロテインを獲得することを次年度の課題とした。 さらに初年度は、次年度に予定していた、磁場によるアクチン繊維構造体の極性制御の予備実験を先駆けて行った。具体的には、磁気ビーズからアクチン繊維を伸長させ、磁場によりアクチン構造体の造形制御を試みた。アクチン関連タンパク質であるWASP-VCAドメインを固定した磁気ビーズを用いることでアクチン繊維のアスター状構造体の構築に成功した。磁気ビーズに対して磁場をかけることで、アスター状構造体の形成中心の位置を制御し、アクチン繊維を一方向に整列させることを実現した。これにより一方向に極性をもつアクチン繊維のバンドル状構造体を容易に構築することが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アクチン繊維ネットワークの爆発的成長に必要な一部のタンパク質に関しては、継続して高活性のものを獲得する必要がある。しかし、必要なアクチン関連タンパク質を獲得できなかった場合でも、代替案である磁気ビーズを用いて、極性を有するアクチン繊維構造体を構築することには成功している。次年度は、アクチン構造体をリポソーム内で形成させ、極性のある軸索構造を持つ神経細胞型分子ユニットを構築し、本研究計画の目的を達成する。
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今後の研究の推進方策 |
初年度では、アクチン関連タンパク質の活性評価を行い、その結果、より高活性のキャッピングプロテインを獲得することが必要であることが明らかとなった。そこで次年度は、アクチン繊維ネットワークの爆発的形成を実現するため、高活性のキャッピングプロテインの精製を試みる予定である。 材料獲得を行う一方、アクチンおよびアクチン関連タンパク質をリポソームに封入する条件の検討を行う。具体的には、油中で得た単層脂質膜水滴を、別途用意した油水界面の単層脂質膜にくぐらせる方法でリポソームを構築する。 また初年度は、磁気ビーズを形成中心としたアクチン繊維のアスター構造体を構築した。このアスター状構造体に磁場をかけることで、極性を有するアクチン構造体に転移させることに成功している。この方法は当初予定していたアクチン繊維を爆発的成長させる方法よりも容易に極性を有するアクチン繊維の構造体を構築することができる。さらに、操作性も高く、リポソーム中に構成要素を封入したあとでも外部操作が可能である。高活性のキャッピングプロテインを獲得できず、アクチン繊維の爆発的成長を達成できなかった場合、バックアッププランとして、磁場により極性を有するアクチン構造体を作る方法により、軸索構造を有するリポソームの構築を試みる予定である。
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