本研究では、ケミカルAIの構築に向け、脂質膜のコンパートメントであるリポソーム内で、爆発的に成長するアクチン繊維ネットワークを再構築し、軸索構造をもつリポソーム(神経細胞型分子ユニット)を合成することを目指す。 初年度では、磁気ビーズからアクチンを形成し、アスター状構造の構築に成功した。次年度は、さらに、当該領域の主要な実験システムであるリポソームにアクチンを内封する条件を検討した。本研究では、一度に調製可能なサンプル量が限られているため、極めて少量のサンプルでリポソームを作成する必要があった。そこで、数十マイクロリットル程度のサンプル量でリポソームを調製および観察を同時にできる微小セルを開発した。この微小セル内で、水層/脂質エマルジョンの二相形を形成し、3Dプリンターで作成した専用の卓上遠心分離機用小型スイングローターによりセルを遠心し、リポソームを高収率、高純度で得ることに成功した。 リポソームの内水相に、アクチン形成促進タンパク質を塗布したビーズとアクチンを封入し、遠心分離を行うことにより、極性化したアクチンアスター構造をリポソーム内で構築することに成功した。これにより、リポソーム内に構造的な非対称性を導入することに成功した。さらに、アクチン架橋剤タンパクを同時に内封することで、アクチンを束化し剛直性を高めたところ、アクチン束によりリポソームが変形し、本研究の目的とする神経軸索様構造が形成されることが明らかとなった。この軸索様構造は最大でリポソームの直径に対して20倍程度の長さに達した。このことから、本研究により作成した神経細胞型分子ユニットは、実際の神経細胞のように、距離が離れた他の分子ユニットと接続できる可能性があり、ケミカルAIの構築に一歩近づいたと期待される。
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