研究領域 | 分子サイバネティクス ー化学の力によるミニマル人工脳の構築 |
研究課題/領域番号 |
21H05887
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
平 順一 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 助教 (20549612)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | ヘリックス / 合成ペプチド / リポソーム |
研究実績の概要 |
本領域が開発を目指すSensor Processor Actuator(PSA)ユニットによる情報伝達は、ヘテロな微小環境内外での連続的な化学反応の連鎖のあり方と捉えられる。より微視的には、脂質二重膜等で内外を明確に区別されたコンパートメントに対するインプットとアウトプットの連続から構成され、これらコンパートメント間での刺激の放出と受容を担う分子はシステムのキーパーツと言える。本研究は、PSAユニットの「入り口」での受容体-リガンド反応、及び「出口」でのアクチュエーターとセンサーユニットの情報伝達を実現する分子群をはじめ、ナノスケールのロボットに応用可能な種々の部品の開発を目指した。当該年度、両親媒性ヘリックスペプチドを脂質膜上で機能させることを目指し、ペプチド濃度と脂質膜組成の最適条件の探索を中心とした検討をおこなった。正電荷と負電荷を有するヘリックスペプチドの二量体は中性および酸性脂質膜に対する高い集積性を示したが、同時にマイクロモーラーオーダーの濃度では強く膜を障害した。以前報告した電気生理学的手法を用いたイオン透過孔形成の評価結果と併せ、この二量体ペプチドが脂質膜上にて分子素子として機能するにはナノモーラー以下の濃度が最適であることが示唆された。また、脂質膜にはコレステロールの添加等による、ペプチドによる膜破壊への対策の必要性も併せて示唆された。当該年度は上記の他、領域の研究者が開発を進める、DNAラベル化されたタンパク質について、高性能質量分析装置を用いたDNA修飾位置の探索を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本公募研究が採択された2021年10月より、ヘリックスペプチドを母体とした基礎的な設計および物性検討を開始した。正電荷(リジン残基)および負電荷(グルタミン酸残基)を導入した両親媒性ヘリックスペプチドのヘテロ二量体について、脂質膜との相互作用に関する基礎的検討を行なった。このペプチドは、中性および酸性脂質膜リポソームに対する集積性が高いことが示唆された。脂質膜に集積する性質は、脂質膜上で機能するペプチドとして好ましい一方で、1マイクロマーラー程度の濃度であってもリポソームを破壊したため、リポソームへの実装においてはペプチド濃度をはじめとしてより詳細な検討を要することが示された。また、この検討の過程で偶然、pH依存的に集積する可能性を示すペプチドを見出した。 なお、2021年の末は、所属部署での改修工事に伴う移転作業に想定以上の時間を要したことや、年度末に急遽、所属部署内の什器類の入替えが行われるなどしたため、予定していた進捗からは遅れる状況となった。 2021年度、研究代表者の所属機関に高性能質量分析装置が導入された。この装置を活用し、領域内の他の研究者と共同してPSAユニット内でアクチュエーターとして機能する分子の構造解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、両親媒性ヘリックスペプチドの構造・機能両面での検討を進め、リポソームへの実装を目指す。また、この検討の過程において見出された、pH依存的な組織化に関する解析も併せて検討を行う予定としている。重水中においてペプチドのアミドプロトンは交換反応を起こし、ペプチド鎖の溶媒への露出と重水への置換度が相関することが知られている。重水素置換によるペプチドの質量変化をMALDI-TOF質量分析計によって評価することで、ペプチドと脂質膜との相互作用や、ペプチドの集合の評価に応用可能かを併せて検討する。 また、2022年度は、DNA origami上にペプチドを集積する技術の開発を行う予定としている。具体的には特定のDNA配列の添加により駆動するrolling circle amplificationによって合成されるDNA origami上に、ペプチドが規則的に結合する技術の開発に取り組む。これにより、DNA origami上へのペプチドを規則的に配置させる技術の開発を目指す。 この他、領域内の研究者と共同で行っている、DNA修飾タンパク質のDNA修飾部位の特定を目指す。
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