ミニマル人工脳の構成要素であるリポソームを人為的に変形誘導するための分子アクチュエーションシステムとして,細菌べん毛の多型変換の応用を目指している.本年度は,蛍光染色・単離したべん毛繊維を界面通過法でリポソームに内包させるプロトコールの改善とリポソームの変形誘導をおこなった.まず,大腸菌のべん毛繊維を効率よく精製することを目指した.サルモネラSJW3060株はべん毛モーター基部体のFliFタンパク質に点変異が入ることにより,べん毛が脱離しやすくなることが知られている.そこで,大腸菌をゲノム編集により同様の変異を導入してべん毛を精製したところ,その精製効率はわずかな改善しかみられなかった.つぎに,べん毛に繊維状高分子を添加することで束化を相分離により誘導した.べん毛はらせん形状をしているため,らせんのピッチに沿うように集合し,長軸方向に長さが数倍に伸張した.また,定量的に計測はおこなっていないが,その曲げ方向の堅さも上昇していると期待される.この変形誘導を何らかのトリガーで誘起するために,繊維状高分子をDNAへと変え,DNA伸張とカップルさせることを試みた.しかし,DNAが分解されてしまったため,べん毛精製の段階でDNAaseが混入している可能性があった.そこで,任意に束化のタイミングは制御できないが,リポソームを作製する段階で,べん毛が束化する条件で蛍光べん毛を封入した.その結果,束化伸張したべん毛がリポソームの内壁面を押してわずかに変形させる様子を例数は少ないが観察することができた.
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