本研究の目的は、銀河系ディスクの年齢決定や銀河系のダークマターはローの成分として注目されている白色矮星や銀河系の構造的、化学的進化を調べる上で重要な準矮星などの銀河系ハローに存在する低質量で暗い星を、その運動速度が高速(~100km/s)であることを利用して、移動天体として発見し、銀河系の構造を調べようというものである。近傍に関してはSDSSなどのサーベイで調べられているが、大望遠鏡が必要となるより遠方の天体については十分に調べられていない。将来的なHSCによるサーベイを念頭に置き、その解析システムを構築するとともに、既存のSuprime-Camによるディープサーベイのデータに暗い移動天体の発見アルゴリズムを適用することを計画している。 本年度はHSCデータ解析システムの開発に重点をおいて研究を進めた。解析システムのフレームワークはプリンストン大学が中心に開発しているLSST(Large Synoptic Survey Telescope)の解析システムと共通化し、HSCあるいはSuprime-Camに特有な処理を日本側が中心に開発している。申請者は主に様々なポインティングで取得された画像の天体座標の較正、複数の画像間の座標変換の部分を開発した。本研究で利用する予定のディープサーベイのデータは複数の画像を足し合わせてより暗い天体まで検出するので、天体座標の較正をし、複数の画像間で正確な位置合わせができることが重要になる。手法は、まず、SDSSなどの既存のサーベイ観測の星のカタログと観測された画像に検出されている天体のクロスマッチを行い、概略の位置較正をする。その後、空の同じ領域を観測した複数の画像を使って、同じ天体は同じ座標になるように、光学的歪み(distortion)、天体の位置、観測に使ったCCD素子の焦点面上での配置パラメータなどを同時に解く。それぞれのパラメータについて1次で展開することにより、解くべき方程式は線形の行列方程式になる。ただし、天体の座標も同時に解くために、行列の大きさは天体の数(数万)の大きさになり、マルチコアを使った行列操作ライブラリを使う必要があった。このアルゴリズムをHSCのシミュレーションデータに適用したところ、相対的な位置較正の精度は2mas(milli-arcsec)まで到達できることが分かった。Suprime-Camの実際のデータに適用したところ相対的な位置較正の精度は30masでシミュレーションデータに比べて1桁悪い精度になっている。まだ、原因は十分に分かっていないが、実データでの天体の位置の測定方法、カタログ星の位置精度などが影響していると考えられる。 HSC解析システム全体としては、生データから始めて、天体の検出、それらの天体の各種パラメータの測定までの一連の流れがひとつのパイプラインとして実行できる段階になっており、さらに細かいアルゴリズムの調整などを進めている。
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