(1)薄膜の顕微イメージングを行うために、顕微システムを構築した。特に、CCDカメラの画像の色合いからHSとLSとの割合を評価する方法を確立した。 (2)上記、顕微システムを用いて、基板との相互作用の小さなCo-Feシアノ錯体薄膜片の光誘起相転移の時間・空間ダイナミクスを測定した。得られた動画を解析することにより、光誘起相転移がどのように空間伝搬するかがわかる。各空間点における光誘起相転移が起こる直前のHS濃度と起こる時刻の分布を調べた。その結果、光誘起相転移直前のHS濃度は、広く分布し臨界濃度が観測されなかった。それに対して、光誘起相転移時刻は、励起光が当たっていない領域も含めて0.1秒の範囲で同時であることが分かった。これは、空間のある点で光誘起相転移が起こると、その相転移が空間伝搬することを意味する。この仕事は、光誘起相転移の空間伝搬を実験的に観測した初めての仕事である。 (3)他方、ナノポーラスなCo-Feシアノ錯体のNa-K固溶薄膜((Na_<1-x>K_x)_<0.35>Co[Fe(CN)_6]zH_2O)では、中間濃度で高スピン相(HS:Co^<2+>とFe^<3+>から構成されている)と低スピン相(LS:Co^<3+>とFe^<2+>から構成されている)が共存する。これは、自発的に系がNa-rich領域とK-rich領域に分離するためである。上記、顕微システムを用いて、光励起がこの相分離薄膜に及ぼす効果を系統的に調べた。光励起された領域では、HS相が安定になるので、N濃度が増大することが期待される。しかしながら、励起光強度を最大にしても、相分離の空間パターンの変化は観測されなかった。さらに、薄膜をNa^+とK^+が溶解している水溶液に接触させて光励起実験を行った。しかしながら、有意な差は観測されなかった。
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