本課題での目標であるA15相Cs_3C_<60>の超伝導の理解にむけて、本年度はまず、第一原理計算で得られた電子格子相互作用をEliashberg方程式に代入し、転移温度を計算するプログラムを開発した。この手法、即ち、McMillanの式の代わりにEliashberg方程式を用いることで、McMillanの式を導出する際に行う近似の影響を除去することができ、また数値計算上もより収束しやすくなる、ギャップ関数を求めることができる、など様々な利点がある。実際、この手法をA15相Cs_3C_<60>に適用することで、McMillanの式では無視されていたフェルミ面から離れたところの電子状態を取り込むことによって初めて転移温度が正しく計算されることを示した。一般に転移温度が高いと期待される物質では格子振動のエネルギーが大きいため、このフェルミ面から少し離れたところの電子状態まで取り込むことが可能な本手法は、A15相Cs_3C_<60>だけでなく今後高い転移温度を持つ物質を探索していくうえで極めて重要な役割を果たすと考えている。 また、フラーレンを利用した新しい超伝導体探索に向けて、BNナノチューブにフラーレンを内包した系の計算を行った。その結果、この系も三次元結晶と同様アルカリ原子をドープすることで、高い状態密度をもつ金属となり、低温で超伝導となる可能性があることが分かった。また、三次元の場合とは異なる特殊な圧力依存性を持ちうることも示した。今後、実験により実際に物質が合成され物性を測定されることが期待される。
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