研究概要 |
廃熱の含まれる熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換する熱電材料の性能は無次元性能指数ZTが高いほどよい。ZT=S^2T/ρκ(S:熱電能,ρ:電気抵抗率,κ:熱伝導度,T:絶対温度)であり,τ型有機伝導体は金属的な伝導性を示す有機伝導体として最高レベルの熱電能を持つことから,熱電材料として適している可能性がある.これまでの有機伝導体で最高のZTは,研究代表者が見いだしたτ-(EDO-S, S-DMEDT-TTF)_2(AuBr_2)_<1+γ>の0.042@130Kである.H22年度の研究計画では,磁場によってSを増大させることでより高いZTが発現するかどうかを明らかにすることも目的としていた.H22年度は測定用ソフトウェアの改良と,熱伝導度測定の改良を行った. また,EDO-S, S-DMEDT-TTFの2個の酸素原子を置換した(1)EDT-S, S-DMEDT-TTFおよび1個置換した(2)ETO-R, R-DMEDT-TTFのAuBr_2塩について測定を行った.前者はSがより高くなること,後者は乱れの導入によってκが小さくなることを期待した.(1)の塩については,期待通りZT=0.044とこれまでよりも若干高いZTを得ることができた,(2)のAuBr_2塩は結晶性の問題からZTの決定はできず,電気抵抗率の測定のみ行うことができた.さらに,有機伝導体においてより低いkを得る条件を探索するために,結晶構造の種類が豊富なBEDT-TTF塩に着目してkの測定を行った.事前の予想に反して,電気伝導度が金属的な結晶構造(β型)の塩の方が,半導体的な構造の塩(α型,κ型)よりも低いκを示すという興味深い結果を得た.
|