公募研究
三角格子やパイロクロア格子などの幾何学的フラストレーションを持つ遷移金属酸化物においては、スピン・電荷・軌道の自由度とフラストレーション効果が複合して特異な物性が現れる。本年度は、先ず、三角格子を形成する一次元イジング系Ca_3Co_2O_6を対象に、核スピン格子緩和率の測定から、スピンダイナミクスについて調べた。その結果、室温より一次元鎖内の強磁性相関が発達し、温度を下げると、約120K以下で鎖間の反強磁性相間が現れることを明らかにした。また、NMRを用いて、低温磁気秩序相で磁場によって誘起されるフェリ秩序転移を直接的に観測した。続いて、V原子がパイロクロア構造を形成するLiV_2O_4をとりあげた。この系は、重い電子系的挙動が初めて発見された3d電子系として、その発現機構に興味が持たれてきた。ナイトシフトの測定から、軌道状態について調べ、三方称の結晶場によって分裂したa_<1g>軌道の電子占有率が大きく、Kondo結合的なモデルを支持することを明らかにした。さらに、二重鎖構造を持つバナジウム酸化物として、NaV_2O_4を研究対象とした。ナイトシフトの測定結果から、Vの3d電子が占有するt_<2g>軌道は二重鎖のrung方向に伸びる2つの縮退したd_<zx>,d_<yz>軌道と、leg方向に伸びる縮退の解けたd_<xy>軌道から構成されることがわかった。この2種類の軌道はrung間に強磁性的相互作用、leg間に反強磁性的相互作用を持ち、NaV_2O_4は、この2つの磁気的相互作用が競合したフラストレーション系と考えられ、その結果、常磁性相において強磁性相関が支配的であるにもかかわらず、らせん構造を持つ磁気秩序状態に転移することを明らかにした。
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Journal of Physics : Conference Series
巻: 273 ページ: 012128(1-4)
巻: 273 ページ: 012142(1-4)
Phys.Rev.B
巻: 82 ページ: 094430(1-8)
Phys.Rev.Lett.
巻: 104 ページ: 207201(1-4)
http://i-ken.phys.nagoya-u.ac.jp/