研究概要 |
磁気的相互作用が均一でも幾何学的空間配置に起因してフラストレーションが生じ得る。最近、これら構造の新奇磁性が注目されている。Harrisらによって4面体スピン配置をもつ希土類強磁性体パイロクロアHo_2Ti_2O_7においてスピンアイスという従来予想外の状態が報告され、また同物質系の反強磁性体では量子液体状態の可能性が示唆され、これら均一結晶系での新しい量子相の性質が強い関心を集め、磁性研究のもっとも活発なトピックの一つになっている。 申請者は近年量子スピン系Cu2(OH)3Cl,Co2(OH)3Cl,Co2(OH)3Br,Ni2(OH)3Cl等における特異フラストレーション磁性を発見した。Cu2(OH)3Clは初めてのS=1/2量子スピンのパイロクロア構造で、且つ部分スピン液体状態の可能性が高いという評価を得ている。Co2(OH)3Clでは揺らぎを伴った強磁性相の存在、Co2(OH)3BrではCo2(OH)3Clと同じ結晶構造と磁気イオンにも関わらず複雑な逐次相転移と磁場誘起相転移の存在、Ni2(OH)3Clでは既存理論で説明できない新奇なダイナミック反強磁性磁気秩序、等の新奇量子磁性状態を観測した。本応募研究課題は2年間の期間中、特に興味高い量子磁性を示した物質に絞って純良単結晶の作製とこれらに基づく磁気構造の決定を目指した。れによって、スピン揺らぎと秩序の共存と相転移の条件、及び新奇秩序がもたらす物理を明らかにする。 粉末多結晶合成がすでに完了し、磁化、比熱、中性子散乱、μSR測定により基本物性の把握をほぼ完成している。また、一部物質に関しては0.1mm-1mm程度の単結晶化に成功している。22年度は特にFe2(OH)3ClとCo2(OH)3Brという二つの物質において磁気相転移及び磁気構造の解明を含む磁性解明に成功し、二つの物質における特異フラストレーション磁性を明らかにした。特にCo2(OH)3Brにおける複雑な逐次相転移と磁場誘起複数相転移の存在を初めて発見した。
|