強相関酸化物を含む遷移金属酸化物のヘテロ界面のナノメートルオーダーの領域において、特異な電子状態が誘起されることが発見され、その物理的起源が精力的に研究されているが、起源の詳細は明らかになっていない。そこで、典型的なモット絶縁体であるLaMnO_3とSrMnO_3からなる強相関酸化物超格子を対象として、放射光X線測定やSTEM-EELSによるミクロな構造および電子状態の測定により、界面構造と電子物性の関係を調べた。放射光軟X線による共鳴散乱の結果から、原子レベルで平坦なヘテロ界面では、Mnの価数はLaMnO_3層とSrMnO_3層の境界でシャープに変化していることが確認され、界面の平坦性を改善すると、これまでに報告されているような界面での電荷移動はほとんど起こらないことが分かった。また、磁場を印加すると、Mn価数の分布がわずかに変化することが確認され、このヘテロ界面で発現する巨大磁気効果はMn価数分布の変化が関与している可能性が見出された。界面の平坦性の異なる2種類の試料についてSTEM-EELSの実験に着手し、界面の平坦性がMn価数の分布や酸素欠損の生成などに影響を与えていることを示唆する結果が得られつつあり、今後、詳細な測定、解析を行う予定である。界面平坦性の乱れは元素の拡散などを引き起こす可能性があることから、温度変化により数ケタの抵抗変化を伴う鋭い金属-絶縁体転移を示すペロブスカイト型Ni酸化物(SmNiO_3)をモデル材料として、わずかな元素の置換が強相関物性の一つである金属-絶縁体転移に与える効果を調べた。+3価のSmイオンを+2価のCaで置換した結果、2%程度の元素置換により金属-絶縁体転移温度が400Kから300Kまで低下し、8%以上の元素置換で金属-絶縁体転移が抑制されることが分かった。
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