グラフェン・ナノチューブのナノエレクトロニクス応用において欠陥・不純物の制御が重要であり、本研究では、欠陥・不純物の第一原理に基づくシミュレーションを行う。本年は、水素不純物の研究を行った。まず、グラフェンでは水素原子が1個吸着すると1μBの磁気モーメントが発生することが分かった。水素の1s軌道とグラフェンのDirac cone点における波動関数の混成によって生じた波動関数にマジョリティスピンを持った電子が占有することにより、スピン分極が生じる事が分かった。次に、水素原子が2個吸着する場合であるが、2個の水素原子は、最近接の関係にある炭素原子と結合を作る事が分かった。このとき、二つの水素原子はグラフェン面の上下に存在する構造が最安定であると結論された。いっぱんに、奇数個の水素原子が吸着した最安定構造では、1μBの磁気モーメントが発生し、偶数個の水素原子が吸着した最安定構造では、非磁性の電子構造が最安定である事がわかった。このことは、ナノチューブでも同様である事がわかった。ナノチューブに水素原子が1個吸着する場合、水素原子はチューブの外側に存在する構造が最安定である事が分かった。また、2個吸着する場合も、水素原子はチューブの外側に存在することが結論される。吸着のエネルギーは一般にナノチューブの方が、グラフェンよりも大きく、グラフェンよりも、ナノチューブの方が水素化されやすい事が分かった。また、キャップのあるナノチューブについて計算したところ、吸着のエネルギーは、キャップ領域の方が、チューブ領域よりも大きく、キャップ領域の方が水素化されやすいと結論する。水素原子が1個吸着する場合、水素原子は、キャップ領域の5員環に吸着する構造が最安定である事が分かった。
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