近年、単層カーボンナノチューブを新しい光学材料として応用することが検討されている。しかし、当初報告された発光量子効率は低く、光機能性材料としては十分ではない。光学材料への応用を考えると、発光量子効率が何で決まっているかを明らかにし、量子効率を上げるための指針を得ることが必要である。本研究では、様々な方法で作製されたカーボンナノチューブの発光量子効率を調べた。さらに、発光量子効率に大きな影響を与えうる、カーボンナノチューブ分散条件についても調べた。測定では、カーボンナノチューブの発光と比較的発光(蛍光)波長が近い量子効率が既知の参照色素との比較を行い、発光量子効率を決定した。そのような方法で、ポリマーを用い分散させた種々のカーボンナノチューブ(アルコールCVD、HiPco、CoMoCAT法)の発光量子効率を測定したところ、その値は作製法によらずほぼ一定であることがわかった。さらに、溶液中に分散させる際の超音波処理時間を変えたサンプルを用意し、その発光量子効率を調べたところ、それに強く依存して発光量子効率が変化することがわかった。原子間力顕微鏡により、各々の超音波処理時間のサンプルについてカーボンナノチューブの長さを測定した。その結果、超音波処理時間が長くなるにつれカーボンナノチューブの平均長さが短くなることがわかった。このようなカーボンナノチューブの長さに依存した発光量子効率の振る舞いを、励起子拡散モデルで議論した。その結果、カーボンナノチューブの内部では無輻射遷移として働く欠陥がほとんど存在せず、カーボンナノチューブ端に到達した励起子によって無輻射遷移が起こり、これが発光量子効率を制限していることが明らかとなった。これは、カーボンナノチューブの長さが発光量子効率を律則していることを示している。このように、カーボンナノチューブの光学材料としての重要な知見が得られた。
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