エネルギーの取り出しを目的とした核融合プラントでは、高温の熱媒体がプラント内を循環する。この媒体に含まれたトリチウムは、その流れに沿ってプラント内に分布することになり、また燃料処理系では多量のトリチウムが取り扱われる。熱交換器や配管等の壁を透過し、除去設備を通りぬけたトリチウムは通常運転時においても微量ながら環境中に放出されることになり、公衆環境への影響を考慮したうえで制御されなければならない。この放出されるトリチウムの化学形態や量は、ブランケットの増殖材や冷却材、エネルギー取り出し方式等、また、運転条件や使用する材料の物性等によっても大きく異なってくる。 本年度の研究では新たに、プラント内および環境中でのトリチウムフローを、各種ブランケット形式や冷却方式、熱利用系に応じ、構成する材料の透過係数や拡散係数などの物性値、配管や隔壁の厚みや表面積などの設計値、温度や圧力などの運転条件、トリチウム除去システムの規模等に応じて見積もり、あるいは文献調査を行い、比較検討した。さらに、このようにして放出されたトリチウムが環境中の大気や各要素間をどのように移行し、最終的に農作物や人体に蓄積されるかを、昨年度より継続して開発を進めてきた大気中移行拡散モデルとコンパートメントモデルを用いて求めた。モデルめ開発においては重要なパラメータのいくつか(大気から水への移行係数等)について実験的に計測した。 このような影響経路分析により、核融合プラントの運転が環境や人体に与える影響を評価することが可能となった。逆にこれらの影響によって核融合炉内機器でのトリチウムの透過、漏洩、あるいはインベントリーの目標値や制御方法が決定されるため、本領域研究の環境・社会に対する成果を示す上で重要な成果である。
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