本研究では、レーザーによる物質の脱離およびイオン化について検討を行ってきた。そのとき、MALDI-MSでは有機マトリクスが使用されるのに代え、本研究ではいくつかの無機ナノ粒子をサンプル基板上に置くことによって、有機化合物の効率のよい脱離・イオン化を可能とした。まず、標識化合物としてチロシンを選択し、多くの色、吸光スペクトルの違いを有するナノ粒子、カーボンなどを用いてソフトイオン化の効率の違いについて測定した。その結果、波長と用いるナノ粒子との組み合わせによって、脱離効率が大幅に異なることが見出された。これは、ナノ粒子の吸光が重要であることが示された。なかでも、金属および金属酸化物に有効である兆候が見られる。つまり、ナノ粒子本体は有機化合物の脱離に大きく影響していることが示唆された。非常に興味深い。また、プラズモン吸収が大きな影響を及ぼすことが見出され、特に凝集状態がよいことが分かった。これも局所電場の影響であると示唆される。半導体でもプラズモンと同様の効果がある粒子が特徴ある挙動を示していた。さらに、ナノ材料自体の形状が脱離に影響することを初めて見出し、それがナノ材料内部での局所急速加熱によるものであることを発見した。これらの成果を用い、検証したナノ粒子について、ソフトイオン化能をとりまとめた。また、ナノ粒子の表面部分を加工することにより、これまでMALDI-MSでは脱離・イオン化できなかった物質の脱離・イオン化が可能となることが見出され、大きな特徴を示すことができた。これは、特に低分子薬物の検出に役立つことが示され、科研費の成果が国民の安心・安全に資する可能性がたかまった。
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