水素結合のダイナミクスは孤立分子から凝縮系、生体系に至るまでその物性、反応において中心的な役割を果たしている。特に凝縮系における表面・界面は不均一触媒に代表されるように多くの化学反応が進行する場であり、固体表面における水分子、水酸基、プロトンの反応、ダイナミクスは触媒を理解する上で本質的である。また、表面は真空側から顕微鏡を用いて「観る」ことができる特殊な場であり、水素結合ダイナミクスを実空間で可視化することが可能である。本研究ではCu(110)単結晶表面に吸着させた水分子、水酸基を走査トンネル顕微鏡(STM)により単分子レベルで観測し、個々の水素結合の形成・解離の制御、水素結合を介したプロトン移動、水酸基多量体の協調的なフリップ運動など、水素結合が関与する素過程の観測を行った。触媒反応は一般に溶媒効果など複雑な環境下で進行することが知られているが、環境を分子レベルで制御した理想系における研究は、その環境への依存性を解明するための第一歩となる。 Cu(110)表面に水分子を吸着させた後、個々の分子から水酸基を作製し並べ、さらに水分子を1つ結合させることにより、H_2O-(OH)n(n=2-4)複合体を作製した。作製はSTMによる単分子操作を用いて行った。複合体は一列に並んでおり、端の水分子に電圧を掛けることで水分子のプロトンが水酸基に移動し、順次水素結合を伝わって端まで到達することを見出した。このようなプロトンリレーは水溶液反応などにおける素過程であることはよく知られでいるが、その過程を初めて直接観測することに成功した。反応収量の電圧依存性を詳しく調べ、さらに理論計算と併せて解析することにより、水分子の振動励起がプロトンリレー反応の引き金になっていることを見出した。
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