本研究では回折限界を超える分解能を有する光学イメージング技術によって、表面/界面における高分子鎖の物性を単一分子レベルで明らかにすることを目的としている。これまでの研究により、分子配向状態の観測を実現する励起偏光変調顕微鏡の開発を行った。本年度ではこの手法を用いて、高分子鎖のコンホメーションとともに局所的なセグメント配向状態を可視化することで単一高分子鎖のダイナミクスを評価した。膜厚300μmのポリメチルメタクリレート(PMMA)のフィルムを作製し、表面近傍に蛍光ラベルしたPMMA鎖を分散することで単一のPMMA鎖の形態を評価した。フィルムに全体に対して外力を加えて延伸したところ、延伸に伴って単一分子レベルでも伸張した形態をとっていることが確認された。その後の応力緩和過程における鎖のコンホメーション変化を追跡したところ、応力が減少しているにもかかわらず鎖は初期の伸張した形態を維持していることが明らかとなった。一方、偏光変調観察によって測定された局所的なセグメント配向度は応力とともに緩和していることが分かった。このことから延伸後の高分子鎖はセグメントレベルの局所的な速い緩和と遅いコンホメーション緩和を示すことを実験的に明らかにした。また表面のみをラビングした際に誘起される高分子鎖の配向についても評価を行い、ラビングによってはコンホメーションの大きな変化は起こらず、セグメントレベルの局所配向のみが誘起されること明らかにした。 一方で、従来以上の高分解能観察を目指して新しい顕微鏡技術の開発に着手し、4nmの分解能で単一高分子鎖の末端間距離の計測に成功した。
|