本研究はフェムト秒過渡吸収および蛍光測定等の超高速分光法を主たる測定手段とし、高分子鎖内で非局在化した励起エネルギーおよび電荷の挙動について明らかにすることを目的とした。今年度の検討により以下の結果を得た。 (1)電荷移動と光エネルギー捕集機能を統合した機能集積型高分子の合成と評価。生体高分子であるDNAは核酸塩基が高度にスタックした構造を有することから、分子ワイヤとしての応用が検討されているが、その多くは正電荷移動に基づくものであり、負電荷(過剰電子)移動に関する検討は多くない。本研究ではDNAに光増感電子供与体および電子受容体としてテトラチオフェンおよびヂフェニルアセチレンを結合し、励起一重項テトラチオフェンより注入された過剰電子がDNA内を移動する速度をフェムト秒過渡吸収測定により始めて明らかにした。さらに光増感電子供与体としてチオフェン三量体を用いることで、過剰電子注入速度の自由エネルギー依存性やチミンおよびシトシンでの過剰電子ホッピングの可能性を示すことに成功した。 (2)励起エネルギー非局在に伴い構造変化する高分子の実時間観測。オリゴフルオレンは高い蛍光量子収率を示すことから光機能材料への応用が期待される分子であるが、本研究では、トルセンをコアとした星型オリゴフルオレンの蛍光プロファイルをピコ秒領域で測定することで励起一重項状態での構造緩和の時定数を求めることに成功した。この現象は過渡吸収測定でも確認することができ、理論計算との比較より、励起一重項状態での構造緩和が平坦化に基づくことを明らかにした。 (3)励起エネルギー非局在と非線形効果の相関の解明。上述の星型オリゴフルオレンの二次の非線形吸収係数をzスキャンを用いることにより測定し、非線形吸収係数が中心のコアの対称性に依存することを明らかにした。
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