レーザー脱離法は、熱的に不安定な生体分子を非破壊的に気化するのに有効であるが、気化した分子は高温であるためクラスターの生成には極低温冷却する必要がある。本研究では、独自に開発したレーザー脱離装置を用いて、糖-リン酸基が塩基に結合した塩基ヌクレオチドを非破壊的に気化することに初めて成功した。これは、塩基ヌクレオチドが脱プリン化反応を起こすことを抑制するために、リン酸基をエステル化することで可能となった。このリン酸基のエステル化は、早川芳宏教授(愛知工業大学)と塚本眞幸博士(名古屋大学)との共同研究として行われ、今後2個以上の核酸塩基がリン酸基で結合したポリヌクレオチドを合成し、これを気相孤立化することで、塩基対の高次構造形成における糖-リン酸基バックボーンの役割を検討できると期待される。 また本研究では、このような大規模分子系に適用可能な非調和振動理論を開発し、これを用いて塩基対や塩基水和の構造を決定することを山梨大学(現、University of Illinois)八木清博士との共同研究として行った。その結果、グアノシンのようなヌクレオシドや塩基水和物の赤外振動スペクトルを、低振動モードのカップリングを効率的に取り入れることにより、従来のようなスケーリング因子を用いることなく再現することが可能となった。この成果は、Pacifichem 2010 Congressにて公表(865220)し、オーガナイザーにより注目論文の一つに採択された。
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