研究概要 |
当初研究計画では、非弾性散乱による温かいクラスターの生成、及びそれに伴う構造変化の分光観測を目指した。ところが、クラスターと希ガスの交差ジェット過程では大半の衝突が弾性的であり、目標達成が極めて厳しいことがわかった。そこで、当初望んでいなかった弾性衝突を敢えて利用する研究手法として、交差ジェット法による巨大分子クラスターのサイズ分離を新たに提案した。本手法では、分子線中に分布する様々なサイズのクラスターと希ガス原子ビームの衝突過程で、運動量移動により低質量のものを飛行方向から散乱させる。その結果として、衝突領域を透過した巨大サイズクラスターのみを空間的に分離し、これに赤外分光を適用して構造の解明を行う。この方法論を巨大アセチレンクラスターに適用した。 アセチレンクラスターの赤外スペクトルには、高強度の3234cm^<-1>のバンドと3240~3270cm^<-1>の弱いバンド群が観測され、各々100量体以上の巨大クラスター、10量体前後の小クラスターのCH伸縮振動と暫定的に帰属された。クラスター分子線にHe原子ジェットを衝突させて赤外スペクトルを測定すると、3234cm^<-1>のバンド強度が30%減少したのに対して、3240~3270cm^<-1>は50~80%の減少が観測された,この結果は、Heとの弾性散乱により低質量クラスターが分子線方向から弾き出され、(粗くではあるが)質量分離された巨大クラスターの赤外吸収が観測可能であることを示した。今後、本手法を応用することにより、巨大クラスターの光化学や相転移に伴う構造変化を、サイズをパラメータとして議論することが可能になることが期待される。
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