ミトコンドリア内膜の呼吸鎖電子伝達系では呼吸基質から遊離した電子が伝達され、それと共役したプロトンポンプが働く。そして膜電位(ΔΨ)とプロトン濃度勾配(ΔpH)からなるプロトン駆動力(Δμ_H+)が生成する。電子伝達速度はΔμ_H+により制御されることが知られており、呼吸調節と呼ばれている。このしくみを分子構造に基づいて説明するために、可溶化チトクロムo酸化酵素(CcO)をリン脂質二重膜小胞に再構成したCOVをモデル系として用いた。色素ローダミンを用いてΔΨをプローブし、ΔΨ存在下と非存在下の共鳴ラマンスペクトルを比較したところ、ほとんど差が認められなかった。一方、Δμ_H+存在下と非存在化では共鳴ラマンスペクトルに差が認められたため、構造変化を引き起こすのはΔpHであることが示唆された。pH指示薬であるパィラニンを用いた実験ではCOV外液のpH変化は認められなかったため、ヘムの構造変化を引き起こしているのはCOV内部のアルカリ化であることが示唆された。紫外共鳴ラマン分光法によるCOVの構造解析の準備としてCcOの紫外共鳴ラマンスペクトル(励起波長:229nm)を測定する条件を決定した。また、COV中のP中間体を調べる準備として紫外ラマン用石英試料管(セル)中でCcOのP中間体を調製する条件を決定した。 CO結合型CcOのCOを光解離した後のヘムおよびその近傍の構造変化を時間分解可視共鳴ラマン分光法で調べた。2つのヘムの協同的構造変化を検出するとともにCO結合型や平衡状態還元型とは異なる中間的コンフォメーションの存在が明らがにした。同様の実験をプローブ光を赤外として行った。CO光解離後の遅延時間50ns以内にアミドIバンドが変化し、その変化は2μsの時定数で消失した。この変化はプロトンゲートの開閉を反映している可能性が高い。
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