蛋白質が触媒する化学反応は、それを構成するアミノ酸だけでなく、金属原子や水分子によって形成されるナノメートルサイズの特異な反応場により行われる。植物の光合成では、光化学系IIに存在するマンガンクラスターによって水分子から電子を受け取っており、古細菌型ロドプシンの光駆動プロトンポンプにおいては水分子がプロトン移動に重要な役割を果たしている。これらの実在高次系である蛋白質そのものを研究する一方で、その触媒反応の本質のみを取り出したモデル系の構築も重要である。本研究では、自己組織化により形成された「かご状有機金属錯体」のナノ空間中での様々な特異な光化学反応を赤外および可視分光法により明らかにすることを目的としている。 平成22年度は以下のような成果を得た。1)Pd-Nanocageにおけるピコ秒過渡吸収スペクトルに対してSVDおよびGlobal fitting解析を行い、励起状態の吸収スペクトルおよびその時定数を見積もった。電子移動反応が生じるアダマンタン入りPd-Nanocage試料で時定数が2倍程度大きくなることを再確認した。2)バクテリオロドプシンおよびハロロドプシンの時間分解赤外分光解析を行い、蛋白質内部の水分子に由来する振動スペクトルの変化や、蛋白質骨格の構造変化を明らかにした。3)Pd-Nanocageの光反応に伴う赤外吸収スペクトル変化を実時間で計測するためにナノ秒領域での計測条件の検討を行った。
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