研究概要 |
本研究は、周波数領域ならびに実時間領域での非線形コヒーレント分光の活用によって、従来の手法を凌駕する検出感度と測定精度で分子間振動のエネルギー準位構造を明らかにし、その実験的情報に基づいて真に定量性のある分子間相互作用ポテンシャルの決定を行なうことを目指すものである。本年度の成果は下記の通りである。 周波数領域の研究としては、ベンゼン-(He)_<1,2>ならびに-(H_2)_<1-3>の電子スペクトルを、完全に回転構造を分離して測定した。ベンゼン-Heについては、分子間振動が励起した状態への振電バンドにおいて、ベンゼン分子面の上下をHe原子が行き来する運動に対するトンネル分裂が観測された。分子間振動のエネルギーやトンネル分裂の大きさは、高精度の量子化学計算に基づいた予測と比較的良く一致していた。H_2とのクラスターでは、パラおよびオルソ水素に対応する2つの異性体に由来するバンドが観測され、H_2の2つの水素が入れ替わる運動が存在することが示された。パラ種の検出には純パラ水素試料を用いる必要があったことから、オルソ種に比べてパラ種の方が、実効的な結合エネルギーが小さいものと考えられる。一方、H_2の重心とベンゼン平面間の距離は、パラ種の方が0.2Aも短いことが明らかになった。この事実は、クラスター内でのH_2分子の平均的な配向が、2つの各スピン異性体で大きく異なることを示唆する。各遷移の線幅は装置分解能より有意に大きく、励起状態において振動前期解離などの緩和過程が存在することを示した。この結果は、ポンプ-プローブ法による寿命測定の結果からも確認された。 実時間領域での研究では、高強度の非共鳴フェムト秒パルスによってNO-Arの分子間振動をコヒーレントに励起した実験結果について、理論的な解析を進めた。高精度の量子化学計算による分子間ポテンシャルに対して、2次元の量子波束の時間発展を厳密に計算し、実測データが良く再現できることを確認した。
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