本研究は「造血幹細胞が分化するかどうかの分岐点は細胞周期のG_2期にあることを仮定し、その運命選択に関わるシグナル分子を明らかにする」ことを目的とした。私たちは純化した造血幹細胞を特定のサイトカイン存在下で培養するとほぼ同期して細胞周期に入り、平均約48時間で1回転することを明らかにした。さらに、少なくとも培養24時間以内は造血幹細胞活性が変化しないこと、また、シングルセルレベルの実験から、M期を境に造血幹細胞活性が変化することを明らかにした。また、細胞内シグナル伝達の解析から、造血幹細胞刺激直後に活性化したシグナルは数時間後に一旦不活性化されるが、その後のG_2期に特定のシグナルが再活性化されることを見出した。これらのデータは造血幹細胞刺激直後の細胞内シグナルは細胞周期開始に必要であるが細胞の運命決定には関与しないこと、運命の選択はG_2/M期に行われることを示唆していた。本研究では造血幹細胞の細胞周期における自己複製シグナルを同定することを試みた。純化した造血幹細胞をフローサイトメトリーを用いて分離しStem cell factorとトロンボポエチン存在下で無血清培養を行い、培養前の細胞、培養6時間、12時間、24時間、48時間後に回収した細胞に対し、各種のシグナル分子に対する抗体を用いて、single-cell immunostainingを行った。その結果からG_2期においてJak2のリン酸化が細胞の運命選択に大きな影響を与えていことを示唆するデータを得た。Jak2/Stat5シグナル伝達系活性化の意義を解析するために、Stat5の特異的結合部位を含むプロモーターの下流で蛍光色素を発現するリポーターマウスの作成を試みた。しかし、残念ながら期待通りのマウスが得られなかった。一方、本研究において造血幹細胞のG_0期制御についても解析したが、骨髄内のシュワン細胞がニッチ細胞の一員として、TGFβの活性化に関与していることを見出した。申請者らは、以前、TGFβが造血幹細胞のG_0期維持に重要な働きをしていることを報告しており、これを裏付けた。
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