本研究では、生体筋組織における骨格筋細胞の増殖・分化機構の解析を通じて、筋分化決定因子と細胞周期調節因子との相互作用を明らかにすることを目的とし、特に骨格筋幹細胞(筋サテライト細胞)の生体内分化過程における細胞周期制御機構の解明をその焦点とする。また筋サテライト細胞の増殖・分化、またはそのニッチから損傷組織への動員といった生体内動態の把握、筋サテライト細胞をはじめとする未分化骨格筋細胞の生体内動態制御因子、シグナル分子の解明も本研究の遂行上、重要な関連課題と考えられ、これらを総括した骨格筋細胞の増殖相と分化相、そして両相間の移行制御機構おける細胞周期制御因子群の機能の解明を目指すものとする。今年度の研究で、研究代表者らは、マウスの大腿動静脈の結紮により主に腓腹筋を中心とした虚血壊死組織の形成、そしてその再生過程を病理組織あるいは超音波ドップラー法によって精査する虚血肢モデルを確立した。またこの虚血肢モデルをマトリックスメタロプロテイナーゼ-9、あるいは血液線維素溶解系因子プラスミノーゲン等の各種プロテアーゼ遺伝子欠損マウスで作製すると、虚血壊死組織の再生が有意に遅延することが判明した。これらの遺伝子欠損マウスの骨髄中の組織幹細胞の分画では、組織再生過程におけるS期への移行が有意に阻害され、細胞周期制御機構における各種プロテアーゼ活性の関与が示唆された。なお代表者らは組織型プラスミノーゲンアクチベータの投与により、これらのプロテアーゼの活性化を誘導することによって、骨髄細胞ではS期への移行が有意に促進され、虚血壊死組織の再生も促進されることも報告した。現在、これらの各種プロテアーゼ遺伝子欠損マウスの筋肉組織再生過程における筋サテライト細胞、筋肉細胞の細胞周期及び骨格筋転写、筋分化決定因子群の発現解析を通じて、これら因子の相互作用の存在について精査中である。
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