中枢神経系の発生において、個々の神経細胞は、特定の神経細胞への運命決定、最終配置部位への移動、シナプス形成などの一連の過程を経て分化を遂げる。この細胞分化過程において、多くの神経細胞は増殖能を失い、強制的に細胞周期を進めると細胞死を起こす。しかし、細胞分化過程のどの段階で増殖能を失うのか明らかになっていない。これまでに我々は、癌抑制遺伝子であるRbとそのファミリー遺伝子を網膜特異的なCre(Chx10~Cre)を利用して欠損させると、水平細胞のみが増殖し、桿体細胞が排除されることを明らかにしてきた。しかし、Chx10-Creは網膜内でモザイクストライプ状に発現するため、これらの表現型が細胞自律的なものかどうかを区別できなかった。そこで、Rbファミリーを欠損した細胞でのみGFPを発現するマウス、Chx10-Cre;Z/EG;Rb Lox/Lox;p107-/-;p130 Lox/Loxマウスを作製して解析した。このマウスでGFPを発現していない網膜の細胞は、6種類の神経細胞が正常な割合で存在したのに対し、GFPを発現した価ファミリー欠損細胞では、水平細胞の過増殖と桿体細胞の欠失が認められ、それ以外の神経細胞タイプの細胞分化には影響を与えなかった。これらの結果から、水平細胞の過増殖と桿体細胞の欠失は細胞自律的であることが判明し、それ以外の神経細胞タイプは正常に分化することが判明した。今後は、Z/EG;Rb Lox/Lox;p107-/-;p130 Lox/Lox網膜へ時期特異的にCreを発現するプラスミドを遺伝子導入し、細胞分化過程のどの段階でRbファミリーを必要とするのかを明らかにする。
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