細胞周期をコントロールする多数の分子とそれらの機能の概要が明らかになってきたが、一方で、実際の多細胞生物体でどのように細胞周期が制御をされているかまだよくわかっていない。多細胞体における細胞の供給システムを解明する上で、組織再生過程は非常に良い解析系となりうる。私達は、独自に確立したゼブラフィッシュ幼若組織を用いた組織再生系の研究から、ユニークな再生異常表現型を持つゼブラフィッシュ変異体clocheを発見した。colche変異体では、幼生の尾部膜ひれの再生細胞が、アポトーシスを起こす。clocheでは、「再生的な」早い細胞増殖サイクルの制御に異常があることが予想される。Clocheの研究から、再生細胞における、新たな細胞周期チェックポイント機構の解明が期待される。 平成22年度は、以下の研究を進めた。 1)Clocheにおけるアポトーシス細胞の同定: Cloche変異体では、再生細胞の細胞死が起こるが、これらが再生芽細胞かどうかは明らかでなかった。組織の詳細なイメージングから、アポトーシス細胞は上皮より内側に分布しており、再生芽細胞であることが明らかとなった。 2)アポトーシスシグナル経路の解析: cloche変異体で起こる再生芽様細胞のアポトーシスは、主要な経路として知られるp53非依存に起こることを私たちは予備的に明らかにしている。本年度、再生芽のアポトーシスに作用するシグナル経路等の解析を進め、アポトーシスはp53非依存経路にもかかわらず、p53下流の主要なカスパーゼであるCasp3/9が活性化しているらしいことがわかった。また、細胞周期チェックポイントの構成分子のひとつATMの阻害によって、clocheアポトーシスは著しく亢進することがわかった。ATMおよびClocheはin vivoにおける細胞の生存制御に関わっていると考えられる。
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