研究概要 |
発生過程において、「増殖相」から「分化相」への移行に伴い細胞周期関連分子の活性や発現は抑制されなければならないと信じられてきた。しかし、特殊なサイクリン依存性キナーゼであるCdk5およびCDK阻害タンパク質として知られているp27(kipl)は、細胞周期関連分子であるにも関わらず、GO期にある神経細胞で強く活性化していることから、分化相においても細胞周期関連分子が機能していることが示唆されるが、このような視点からの研究はまだ緒についたばかりであり、細胞周期関連分子が大脳皮質形成や脳疾患に果たす役割についてもほとんど解析されていない。これまでに我々は、大脳皮質形成に必須であるにもかかわらず、解析が困難であった「ロコモーション様式」の神経細胞移動の分子機構を直接解析することができる新規の阻害剤スクリーニング法を確立し、「ロコモーション移動」における核の移動にCdk5が関与することを明らかにした(J Biol Chem,2010)。そこで、さらに詳細なタイムラプス解析を用いてロコモーション細胞の形態変化を調べたところ、ロコモーション移動細胞は、まず先導突起の基部に特徴的な膨らみを形成し、次に核が細長く形態変化して、swellingの中に入り込む、という、他の細胞では見られない特殊な移動様式を示すことが観察された。次に、この実験系において、Cdk5の機能阻害剤を添加する実験を行ったところ、Cdk5がロコモーション移動細胞の複雑な形態変化に関与する可能性が示唆された。今後は、阻害剤実験に加えて、RNA干渉法を用いたin vivo実験やスライス培養実験などを併用することにより、さらに詳細な解析を続けていく予定である。
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