スピンドルチェックポイントは、物理的な力と生化学的なシグナルのバランスが精巧におりなす細胞周期制御機構である。本研究は、"有糸分裂前期から後期開始までの細胞周期を強制的に加速・減速させられるか?"というシンプルな細胞生物学的な問いかけに対し、力学的手法と分子細胞生物学的手法を統合した観点から、細胞周期に必須のスピンドルチェックポイント制御における"物理的な力"の本質を解明することを目的としている。 今年度は、昨年度発見した「有糸分裂中期の進行が力によって制御可能である」ことの詳細な分子メカニズムを探った。先端的MEMSカンチレバー装置を用いた生物物理学的手法によって、細胞を圧縮・伸長させた時、細胞分裂装置(紡錘体)に働く張力と加減させる外部負荷の関係を定量化した。これにより、外部負荷の方向依存的、量依存的に、紡錘体に働く張力を増減可能であることを確認した。紡錘体に働く張力を減少させる外部負荷は、スピンドルチェックポイントを速やかに活性化させ、有糸分裂中期進行を遅延させていることがわかった。一方、張力を増加させる外部負荷は、姉妹染色分体を接着しているコヒーシン複合体を物理的に開裂させることにより、中期進行を加速させていることが示唆された。この結果、細胞が受ける様々な外部負荷に対して、異なる有糸分裂中期進行のシグナル伝達機構の存在を明らかにした。これは、卵細胞から組織への階層構造の構築過程において、細胞間の力学情報が、細胞分裂のみならず、遺伝子発現や、細胞間の多次元的位置取りなどにメカノケミカル・フィードバックをかけ、協調させる役割を持つことを示唆していると考える。
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