これまで細胞増殖・分化の研究は、様々な細胞株・モデル生物を用いて、様々な情報伝達経路について、個別におこなわれてきた。しかしながら、細胞増殖・分化に対する統一的な理解が進んでいるとは言い難い。本研究では、クロマチン構造を共通項とし、蛍光相関分光法(FCS)、計算機シミュレーション、ヌクレオソームの1分子イメージングなど、新しい方法論を組み合わせて、増殖相と分化相をクロマチンの構造基盤とダイナミクスの観点から解明することを目的とする。そして、この構造基盤の理解を通して、細胞分化・発生などにおけるゲノムの機能発現の時空間的な制御の仕組みを明らかにし、当特定領域に貢献する。 本年度では計算機シミュレーションを用いて、増殖相・分化相の理解に必須なクロマチンの構造的基盤の推定を試みた。モンテカルロシミュレーションは細胞内の微小な領域の分子の動きを、再現するのに適した方法である。これにより、実験データで得た物理的パラメータを用いて、細胞内部の環境を再現することが可能である。研究協力者・高橋恒一らと共に5量体EGFPのクロマチン内の動きの再現をおこなった。その結果、コンパクトに凝縮しているヘテロクロマチンや分裂期染色体などでは、ヌクレオソームが揺らがないと蛋白質の拡散(動き)出来ないことが明らかになった。また本解析と平行して、ES細胞の試験管内分化誘導系を用いて増殖細胞と分化した神経細胞におけるクロマチン環境の変化を解析するため、ES細胞のEGFPとH2B-mRFPの安定発現株を作製した。
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