公募研究
肥満個体においては癌の発症率が有意に上昇するが、その分子メカニズムの詳細については十分には明らかにはなっていない。我々は、肥満による発癌促進の原因として、高脂肪食摂取によるメタボリックストレスが発癌ストレスとして働く可能性を考え、我々が開発したp16^<INK4a>やp21^<waf1/Cip1>の発現をイメージングするマウスに高脂肪食を摂取させたところ、脂肪肝や肥大した脂肪組織において、p16^<INK4a>やp21^<waf1/Cip1>の発現が上昇し、細胞老化が誘導されることを見出した。このことは、生体内で高脂肪食摂取が発癌ストレスを誘発していることを示す。本研究においては、高脂肪食摂取によるメタボリックストレスがどのようにして発癌ストレスを誘導するのかを、p16^<INK4a>やp21^<waf1/Cip1>遺伝子の発現制御を糸口に解析する。本年度は高脂肪食が、どのような種類の癌を促進するかを同定するため、発癌系として、生後4-5日目の仔マウスの背中に0.5%DMBAを塗布する全身での発癌促進実験を用いた。DMBA塗布後、通常食群(normal diet、ND群)と高脂肪食群(high fat diet、HFD群)に母親マウスとともに分けて飼育し、30週間後にマウスを解剖して腫瘍形成の程度や種類の違いを検討した。その結果、高脂肪食群マウスの100%の個体で肝癌が認められ、10%程度の個体で皮膚腫瘍、10%程度の個体で肺癌を併発していた。一方、通常食群のマウスでは肝癌は全く認められず、本発癌系では高脂肪食により、肝癌が有意に増加することが明らかになった。組織解析の結果、腫瘍部においては、間質を構成する肝臓の活性化stellate細胞と、stellate細胞におけるp16やp21の発現上昇が認められ、stellate細胞において、細胞老化が生じていると考えられた。近年、細胞老化を起こすと、炎症性サイトカインを分泌することが報告され、その現象はSASP(senescence associated secretory phenotype)と呼ばれている。今後、stellate細胞の細胞老化が腫瘍周囲の微小環境に及ぼす影響を解析していく。
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Cancer Research
巻: 70 ページ: 9381-9390