プラスチドは植物の器官・組織を構成する様々な細胞中に、機能的にも形態的にも多様に分化して存在し、生育段階や環境変化による時間的かつ空間的な複雑な制御を受けている。多様なプラスチドの機能維持には、適した蛋白質セットが、適時に発現、適所に配置され、色々な制御を受けて機能しているからに他ならない。このような複雑な蛋白質社会を形成維持することは、単に遺伝子発現レベルの調節だけでは不可能で、転写翻訳後の様々なレベルでの調節が必要である。その重要なひとつが、プラスチドへ蛋白質を輸送し配置する分子装置プロテイントランスロケーターによるものである。しかし、特に内包膜のトランスロケーターTic複合体に関しては、その構成因子も制御機構も不明の点が多い。我々は、Ticの中核がTic20である事、複数のTic20ホモログが異なる発現様式を示し、基質特異性の異なるTic複合体を形成する事を明らかにし、また、同じく基質特異性の異なる外包膜のToc輸送装置との物理的および機能的連携を示唆するデータも得ている。特に本研究では、Tic複合体の構成の全容を解明し、内包膜・外包膜における協調的輸送制御機構や、それがプラスチドの機能維持に果たす役割を明らかにすることを目的とする。 われわれは、シロイヌナズナTic20ホモログに関して、アフィニティ精製用のタグが付加された形で発現するTic20の改変遺伝子を導入したラインの確立および、そこから得られた単離葉緑体を材料に、Tic20複合体の大量精製をおこなった結果、まったく新奇なコンポーネント3種類を同定することに成功している。平成23年度の研究においては、これら新奇3種類のコンポーネントに関して、膜上の配向性や必須性を生化学的および遺伝学的手法により詳細に解析した。また、精製した複合体に関して、電顕観察や再構成実験を行なった。平成24年度においては、成果を論文として纏める作業を進め、8月末に投稿、10月のRevisionの際には、いくつかの追加実験を行った。その結果、本研究により得られた成果は、論文審査員や編集者にも高い評価を得る事ができ、国際誌サイエンスに掲載される事となった。
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