がんの発症には、免疫監視と免疫逃避のバランスが重要であると考えられている。しかし、その分子メカニズムの全貌はいまだ明らかではない。ヒトCD155は、ポリオウイルスレセプターとして同定された分子である。私達はこれまでにCD155のマウスホモログを同定し、ヒトCD155とマウスCD155が、それぞれ免疫系受容体のヒトDNAM-1とマウスDNAM-1のリガンドであることを見いだした。また、私達は、T細胞やNK細胞に細胞傷害活性を惹起するDNAM-1が腫瘍に発現する膜型CD155を認識することによって、免疫システムががんを排除することを明らかにした。一方、CD155にはバリアントの可溶型も存在する。可溶型CD155もDNAM-1と結合することから、可溶型CD155は膜型CD155のアンタゴニストとして機能し、腫瘍が免疫システムから逃避することに関与している可能性が考えられた。そこで、私達は、可溶型CD155を強制発現させた腫瘍株を樹立した。この可溶型CD155を産生する腫瘍株は、Mock腫瘍株と比較して、それ自体に増殖能の差を認めない。しかし、野生型マウスの生体内では、Mock腫瘍株は全匹において拒絶されたが、可溶型CD155を産生する腫瘍株は、DNAM-1免疫監視下にもかかわらず、全匹において腫瘍が拒絶されずに、急速に増大することが観察された。このことが可溶型CD155による免疫逃避によるものであることを確かめるために、可溶型CD155産生腫瘍株とMock腫瘍株を免疫不全マウス(SCIDマウス)に移入した結果、予想通り、腫瘍の増殖速度に差は認められなかった。以上の結果より、可溶型CD155が腫瘍の免疫監視システムからの逃避に関与していることが示された。来年度は、可溶型CD155に特異的な抗体を作製し、可溶型CD155による腫瘍の免疫逃避機構を阻害することで腫瘍を排除する治療モデルを検討する。
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