B細胞は抗体産生により液性免疫の中心的な役割を担っているが、近年、抗炎症性サイトカインであるIL-10を分泌することにより炎症を抑制する機能を有することも明らかになった。B細胞受容体が抗原により刺激されるとさまざまなシグナル伝達経路が活性化されるが、なかでも、Ca^<2+>濃度の上昇がB細胞の機能に重要であると考えられていたが、確たる証拠はなかった。そこで、B細胞におけるカルシウム流入の生理的意義を明らかにするために、B細胞特異的にSTIM1およびSTIM2を欠損したマウスを樹立した。STIM1、STIM2は小胞体カルシウムセンサーであり、カルシウム流入に必須の分子である。STIM1/2ダブルノックアウトマウスはB細胞の分化や抗体産生をはじめとする免疫応答は正常にみられたが、B細胞の分泌するIL-10が著しく減少していることが判明した。STIMの欠損により転写因子NFATの活性化が障害されることがIL-10の産生不全の原因と考えられた。B細胞におけるカルシウム流入の抑制機能への関与をin vivoで検証するために、多発性硬化症の実験モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を誘発すると、STIM1/2ノックアウトマウスにおいて炎症反応の増悪化がみられた。さらに、人為的にIL-10の遺伝子を導入したSTIMI/2欠損B細胞でその抑制能の回復が認められ、STIM欠損によるIL-10産生不全に起因することが示唆された。実際、EAEマウス由来の対照B細胞は抗原によるin vitroでの刺激に対してIL-10を産生したが、STIM欠損B細胞ではこれが顕著に減少しており、抗原に特異的なIL-10産生がSTIMに依存していることを示していた。したがって、STIMの誘導するCa^<2+>流入は自己免疫性の炎症反応に対するB細胞の制御機能に重要な役割をはたしているものと考えられる。
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