胸腺細胞の正と負の選択機構では、MHC分子によって提示される自己抗原をTCRが認識することで派生する細胞内TCRシグナルの差異により細胞の生と死の運命が決定され、免疫系のおける自己と非自己認識のモデルとして古くから研究されている。しかしながら、核内でTCRシグナルを感知し、細胞運命決定機構に変換する分子機構は未だ不明である。本研究課題は胸腺細胞のヘルパー/キラーへの系列決定が同様にTCRシグナルにより制御されることに着目し、この系列決定において中心的な役割を果たすThPOK遺伝子発現制御機構を解明することで、TCRシグナル下流で細胞運命決定を制御する分子機構の解明を目的とするものである。本年度は、ThPOK遺伝子発現制御に中心的な役割を果たすThPOKサイレンサーに結合する核タンパク質を生化学的手法により同定し、複数の候補分子の機能解析を行った。ChIP法により内在性のThPOKサイレンサーへの結合が確認出来た分子について、発生工学的手法を用い遺伝子改変マウスの作製を行った。その結果、機能的な新規ThPOKサイレンサー結合因子として、BCl11b転写因子を同定した。Bc111bは既知のThPOKサイレンサーへの結合因子であるRunxタンパクと相互作用し、T細胞分化過程で多彩でかつ重要な役割を果たすと考えられた。これら成果の一部を第14回国際免疫学会議にて発表した。また、共同研究の成果として、CD8遺伝子の発現の負に作用する事が知られていたMAZR転写因子が、ThPOKサイレンサーに結合しThPOKサイレンサーの活性を正に制御することを国際雑誌「Nature Immunology」に発表した。
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