粘膜免疫系は、血球系細胞以外にも、粘膜インターフェースを構成する上皮細胞と腸内共生菌を含めた三者が互いに影響しあうことで成り立っている。しかし、その三者間の相互作用の分子メカニズムについては不明な点が数多く残されている。申請者は、上皮細胞による免疫機能の制御メカニズムを調べる目的で、上皮特異的に発現する極性輸送制御因子AP-1B複合体に着目し、この遺伝子を欠損させたマウス(以下、AP-1B欠損マウス)を作成した。AP-1B欠損マウスでは、生後8週齢までに著しいTh17細胞浸潤を伴う大腸炎の自然発症が認められた。本マウスに抗生物質を飲水に混ぜて投与することで、大腸炎の発症は緩和した。さらにAP-1B欠損マウスでは健常対照群に比べ、大腸炎発症前から腸内フローラの顕著な変動が認められることから、AP-1B欠損に伴う腸内フローラの変化が大腸炎の発症に影響していることが示唆された。加えて、腸内細菌の粘膜固有層への移行も顕著に増加しているから上皮バリアの機能異常が予想された。そこで、AP-1B欠損マウスの上皮バリア機能について詳細な解析を行った結果、AP-1Bマウス欠損上皮細胞ではタイトジャンクション形成による物理的バリア機能は正常であるものの、抗菌ペプチド産生に異常が認められた。腸管上皮細胞株においてAP-1Bをノックダウンすると、正常状態では側基底面に局在するサイトカイン受容体の一部が頂端面に誤って輸送されることが明らかとなった。これらの結果から、腸管上皮細胞ではAP-1B依存的な機構によりサイトカイン受容体が側基底面に運ばれ、これらの受容体が粘膜固有層で産生されたサイトカインシグナルを感知することで、生体防御反応に重要な抗菌ペプチド産生が増強されることが明らかとなった。
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