研究の概要)先史人類社会で生じた狩猟から家畜飼育への転換を、野生資源の直接的収奪が衰退していく過程ととらえ、その背景に野生動物資源量の変動の影響がなかったか検討している。動物資源量の安定性および狩猟圧の時代変化は、生業転換の要因を検討する上で不可欠な情報である。特に、古代アンデス社会は、エルニーニョに代表される大きな気候変動を経験したことが推定されている。気候変動にともなって植生が減少すれば、草食哺乳類は直接的にその影響を受けたはずである。野生動物の個体数が順調に増加するか、減少に向かうかは、死亡個体数を上回る新生獣が補給されるか否かにかかっている。つまり繁殖年齢にある個体および、今後繁殖年齢に達する若齢個体が、集団内にどれだけ存在するかが重要な要素となる。そこで資源量の変動と狩猟圧の変化の有無に着目し、ペルー北高地に所在する複数の遺跡(BC1200-50AD)から出土したオジロジカ化石について、歯牙の萌出・咬耗状態から年齢構成を推定した。また、日本列島の先史時代遺跡におけるシカ年齢構成とも比較することにより、環太平洋的な視点に基づく、資源変動と生業転換の関係について予備的な考察を行った。 今年度の成果)クントゥル・ワシ遺跡出土シカ資料において、形成期中期から後期にかけて、狩猟対象が成獣から幼獣にシフトする傾向が認められた。幼獣主体の狩猟は将来の資源を枯渇させる危険があり、狩猟圧の高まりを意味する。また、同遺跡では形成期後期にラクダ家畜の飼育が開始されており、両者の関連に注目される。同様の変化は、縄文時代後期の日本列島でも生じており、気候の寒冷化に伴う野生資源の減少との関連が指摘されている。このことから、環太平洋地域において、ほぼ同時期に生じた動物資源利用の転換に環境の劣化が影響していることが示唆された。
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