本研究では、量子ドットと超伝導体の混合量子系を、量子コンピューター素子や量子標準の原理へ応用することを目指している。特に、量子ドット内における電子のスピン状態と超伝導体の位相との結合から生まれる量子状態の活用が重要だと考えている。そのため、超伝導体を強磁性体で隔てた「強磁性ジョセフソン接合」の研究が有用である。強磁性ジョセフソン接合は量子コンピューター素子への応用も提案されている。以前、強磁性ジョセフソン接合に交流磁場を加えた系において階段状の電流電圧特性が得られることを見出した。シャピロステップとは異なり、電圧ステップが強磁性共鳴周波数のみによって与えられるため、磁性に関する新たな量子標準の原理となりうる。スピン状態と超伝導体の位相を活用するためにも、外場の下での量子コヒーレンスの研究が不可欠である。 今年度は、強磁性ジョセフソン接合内に誘起される電磁場とスピン波との複合励起状態を見出した。ジョセフソン接合に直流電圧を印加すると交流ジョセフソン電流が流れ、接合内に電磁場が誘起される。接合は共振器として振舞い、共振モードと交流ジョセフソン電流の周波数が一致するとき、各共振モードに対してジョセフソン電流の直流成分が現れる。この現象はFiske共鳴と呼ばれている。今回得られた結果は、通常のFiske共鳴とは異なり、接合内に励起された各共振モードに対して、複数の共鳴状態が現れる。交流ジョセフソン電流によって接合内に励起された電磁場が磁化に作用し、スピン波が励起されたためである。そして、電磁場とスピン波とが混合励起状態を作っていることが分かった。我々の結果は、実験によって検証され始めている。
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