研究概要 |
本研究は、計算解剖学の手法を用いて年代・性別の標準脳画像を作成することと、これを用いて標準脳からの隔たりを統計検定することにより、脳疾患を自動診断するシステムの開発を最終目的としている。本年度は、日本人脳MRIデータベース(1591例)を用いて20歳代~70歳代の10歳ごと男女に分け、それぞれの年代・性別の平均的脳形態を反映する標準脳を作成した。まず、画像数=nの集団から脳を一例選択し、この脳を集団内の他の脳に変形するための線形、非線形のベクトル場を計算すし、計算したn個の変形ベクトル場を(x,y,z)成分ごとに平均することにより、平均変形ベクトル場を求めた。次いで、この平均ベクトル場を最初に選択した1例の脳画像に適用することにより、集団の平均的脳形態を反映する標準脳を計算により求めた。この操作・計算を全ての年代、性別の群に行うことにより20、30、40、50、60、70歳代の男女別の標準脳を求めた。得られた標準脳を視覚的に判定すると、加齢とともに脳室や脳溝の拡大が見られ、確かに年齢集団ごとの脳の加齢を反映していた。今回の計算は合計1591例というこれまでにないデータ数の計算であることや、幅広い年齢をカバーしている点に独自性がある。今後の課題としては、以下の2点である。1)平均ベクトル場は各(x,y,z)成分ごとに平均値と標準偏差を持っている。今回の計算では平均値しか用いていないが、標準偏差をどのように反映させるべきか検討の必要がある。2)今回は年代ごとに基準となる脳を選択して計算を行ったが、この場合、選択した脳の形態上の個性がある程度最終結果に反映されるため、年代、性を超えた比較ができない。そこで、ある標準的1例の脳を基準として、全ての年代、性別に変形するベクトル場を求めることにより、同じ土俵(脳形態)から出発した標準脳モデルが作成できる可能性がある。
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