研究概要 |
本研究は,「超音波定量診断学」及び「計算解剖学」の構築のため,病変により変化する生体組織音響構造のモデル化と,そのモデルを用いた超音波画像の計算機シミュレーション手法の確立,さらに得られた画像変化の知見から,臨床的な病変超音波画像の理解と診断支援を行うための枠組みを確立することを目的としている。 2010年度は,まず,組織音響特性の測定結果を基にした病変組織の音響構造のモデル化を行った。肝臓の病変をターゲットとして,肝炎からC型,B型肝硬変に移行する肝臓内の散乱体分布の状況をモデル化した。この方法は,解剖学的知識と病変組織音響特性の測定結果を組み合わせ,超音波散乱体配置を正常組織構造から病変組織へと再配置し,病変が進行していく様子を段階的に表現したものである。従来のモデルに比べ,開発されたモデルは線維化の太さの異なるB型,C型肝硬変の違いも十分に表現できるようになった。このモデルを用いることにより,病変の連続的な変化に対応した超音波画像を生成することができる。軽度の病変画像から,いかにして安定な診断情報を引き出すかが医用画像診断における共通の課題であるが,その手法の開発のためにも段階的な超音波画像を生成することができる本研究の成果は重要である。 次に,この病変の音響構造モデルを用いて超音波画像を作成する計算機シミュレーションを行い,生体組織の変化に対する超音波画像変化の知見を集積した。その結果,病変の進行と画像の振幅確率分布との間と定量的な関係が明らかになり,この結果は臨床画像で確認される変化とよく対応していた。この画像を用いて超音波定量診断手法の基礎検討も行い,2011年度に本格的に進める臨床画像より生体組織の音響構造変化を定量的に求める逆問題についての基礎データを蓄積することができた。
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