慢性肝炎は初期に治療を行えば治る病気であるが、重症化し線維化が進行すると肝硬変になると治療が困難になり、また肝癌の発生リスクも高まる。そのため、慢性肝炎の早期発見は重要であるがこれまでの方法では難しかった。超音波組織弾性イメージング装置は、組織の硬さを可視化することで、形態的な異常が現れる前の早期診断を可能とするもので、近年、我々が世界に先駆けて実用化した。本研究ではこの新しい画像診断法である組織弾性イメージングを用いて、非侵襲的に線維化の程度を定量的に評価することで、慢性肝炎の診断支援の実現を目指す。具体的には、連携研究者(山川誠(京都大学・工学研究科・准教授)、工藤正俊(近畿大学・医学部・教授))と、以下に示すような項目について研究を進める。 (1)慢性肝炎の線維化の進行を表現する力学モデルの構築 (2)組織弾性イメージング法による慢性肝炎定量的診断支援システムの開発 初年度は、(1)について取り組んだ。すなわち、線維化の進行が、肝組織の力学的特性にどう影響し、その結果、組織弾性像にどのように反映されるかを明らかにするため、線維化の進行に伴う組成や構造の変化を反映した肝組織の力学的特性を埋め込んだ計算解剖モデルを構築した。次に、そのモデルを用いて、組織弾性イメージング法をシミュレートした。その結果、シミュレーションで得られた組織弾性像は、慢性肝炎の進行に伴う結節形成による不均一なバターンの出現や、平均ひずみ値の増加など、これまで慢性肝炎の症例について得られた組織弾性像の変化と一致する傾向を示すことが確認された。今後は、これから、線維化の程度を特徴づける最適なパラメータ、計測条件、適用範囲と限界等について検討する予定である。
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