研究概要 |
フッ素置換基は、フッ化物イオンとしての脱離能を有すると共に、α-カチオン安定化効果も有している。これらの性質を併せて利用すると、各種フルオロアルケン類からα-フルオロカルボカチオン種を容易に発生させることができ、これを経由するタンデム環化やドミノ環化が進行すると期待できる。こうした反応により、高次ヘリセンなど種々のヘリセン・アセン類およびそれらのフッ素置換体を合成できることになる。本年度は、出発物質のひとつとなる1,1-ジフルオロアレンの合成法の確立と、1,1-ジフルオロ-1,3-アルカジエンのドミノカチオン環化反応を検討した。 (1)1,1-ジフルオロアレン合成法の確立:1,1-ジフルオロアレンは、フッ素原子による特異な反応性が期待できる有用な合成中間体である。従来の合成法は、いずれもフッ素のγ位アレン炭素上へ導入できる置換基に制約があった。そこで我々は、1,1-ジフルオロアレンのタンデム環化やドミノ環化への利用を念頭に置き、その準備段階として、一置換および二置換ジフルオロアレンを短工程で効率良く与える一般的合成法を開発した。 (2)1,1-ジフルオロ-1,3-アルカジエンの時空間集積型カチオン環化反応:上述のフッ素置換基の性質を利用し、既に1,1-ジフルオロ-1-アルケンの分子内Friedel-Crafts環化によりに縮合環化合物を合成していたが、電子不足のジフルオロアルケンを直接プロトン化するのに超強酸FSO_3H・SbF_5を必要とした。そこで、プロトン化し易い共役オレフィン部を導入することにより、穏和な条件下で同様の時空間集積型環化を達成し、ヘリセン類を始めとする縮合環系を構築した。
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