研究概要 |
カルボニル同族体であるチオカルボニル基を鍵化合物あるいは鍵中間体として、様々な反応剤を連続して付加させる多成分連結反応を開拓し「時間的反応集積化」の達成を目指した。 すなわちチオホルムエステルに対して有機リチウム、Grignard反応剤を連続で加えることにより系中でプロパルギルGrignardを発生させ、さらにこれを炭素求核剤として利用する反応の適用限界の解明を行うこととした。すなわちチオホルムエステル1に対してリチウムアセチリド2さらにフェニルGrignard3を加えることでプロパルギルスルフィド4aが中程度の収率で得られることがわかった。この反応ではリチウムアセチリド2がエステル1のチホカルボニル炭素上に求核攻撃し、発生した中間体からリチウムアルコキシドが脱離し、系中ではプロピンチアール5が中間体として発生しているものと思われる。Grignard反応剤3は5のチオカルボニル硫黄上に求核攻撃しプロパルギルGrignard 6を与え、これの加水分解によって4aに至ったものと考えている。ここで反応混合液を重水で処理したところ、プロパルギル炭素が重水素化された生成物4bを同様の収率で与えた。さらに1と2を反応させた混合液にシクロペンタジエンを室温で加え撹拌を行ったところ、Diels-Alder付加体を与えた。このことはチオアルデヒド5の発生を示唆している。また5をB3LYP/6-31G(d,p)レベルで分子軌道計算を行った。NPA電荷分布は5のチオカルボニル基の硫黄が正、炭素が負であることを示している。また5のLUMOは硫黄上にも広がっており、これらは5の硫黄上にGrignard反応剤が付加しうる電子構造であることを示している。ついで1に対して2、3さらに様々な親電子剤を加える四成分連結付加反応を検討した。その結果、ハロゲン化アルキル、アルデヒド、ケトンさらにはオキシランなどの付加が良好に進行した。
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