研究概要 |
生体分子の殆どはキラルな構造・配置を持ち,一種のキラリティの集合体と言っても過言ではない.そのキラルな分子からなる材料の立体構造及びその表・界面の構造解明は,分子レベルでその機能性の理解において非常に重要である.一方,表面や界面のような分子数が非常に少ない箇所では,キラリティの評価は困難を極めている.本研究では,このような不斉表面・界面のキラリティの高感度検出及び分子配向の決定を,二次非線形振動分光法である和周波発生(SFG)分光法によって実現することを目指す.初年度において,キラリティ計測の可能性を確かめると同時に,計測システムの最適化を実現することを目標として設定していた.そこで,まず高いキラリティ強度をもつ(R)-または(S)-ビナフトール(BN)のキャスト薄膜について評価した.(R)-BN薄膜では,通常のアキラル分子系ではSFG信号が全く観測されないpsp偏光状態(SFG,p偏光;可視,p;IR,p.以下同)において,強いSFG信号が観測された.(R)-BN分子のキラリティに由来するキラルSFG信号が薄膜の表面及びそのバルクの両方から由来されるものと考える.キラルとアキラルのSFG信号の干渉を利用し,測定の高感度化とキラリティ信号の違いの区別を調べてみた.そこで,R体とS体のSFGの差分SFGスペクトルのピークの向きが完全に逆となったのに対して,1:1混ぜているラセミ体の薄膜では,差分SFGスペクトルのピークが非常に小さいことが分かった.SFG測定により,ビナフトール分子のキラリティについて評価できた.さらに,分子の数を減らしながら測定感度の向上を試みている.
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