本研究の目的は、錯体分子系において、コヒーレントスピン操作と磁場・電場に対する量子巨大応答を達成することである。 コヒーレントスピン操作としては、超高速掃引磁場下の電子-核スピンエンタングルメントによる量子トンネル現象の実現に続いて、パルスEPRによるラビ振動の観測に成功した。これまでのラビ振動の観測は、殆どが凍結溶液などの稀釈系における実験であったが、今回Siのナノポーラス系に埋め込んだ3角クラスターという固体系において始めてラビ振動の観測に成功したことで、スケーラブルな系の構築への方向性を示した意義は大きい。さらに、量子スピン操作を容易にする系の候補として、異方性の大きな希土類と等方的なラジカルスピンを結合したIsing-Heisenbergクラスターを提案し、スピン量子数が保存しないESR遷移によるラジカルスピンの反転と、交換バイアスによるエネルギー準位の制御が可能なことを示した。これらの系はスピンによる記憶と反転操作の両者が容易に制御出来る系となることが期待できる。 外部刺激に応答するスピン系として、エネルギー縮退の大きな3角クラスターに注目し、Feの3角クラスターの磁性の理解、鋸歯リング磁性体のエネルギー準位の評価などを行い、3角クラスターの量子状態の理解に貢献した。 新学術領域の融合性を生かした研究として、Fe-Co1次元錯体の電荷移動によるスピンクロスオーバー転移における誘電異常、強電場によるブレークダウン現象などを明らかにすると共に、Fe-Coの1:2型のスピンクロスオーバー転移において光誘起状態のESR測定により、光励起により磁気秩序相間の転移が起こることを示した。また、Re錯体において、価数揺動によるNMRの緩和時間の特異な温度変化を見出した。さらに、超小型コイルを用いて従来の100倍大きな磁気力が実現できる事を示した。
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