典型元素の性質を明らかにする基礎科学分野である典型元素化学と、生物を対象とする生化学や生物学とは、これまでにあまり接点がなかった。本研究では典型元素化学と生物学の融合を目指し、研究代表者がこれまでに開発した典型元素間配位結合の形成によって発現するアゾベンゼンの蛍光特性を利用して、生物学への展開と新研究領域の創成を目指した。そのために、アゾベンゼンの優れた染色能力と蛍光特性を活用することで、生体蛍光染色色素の開発を行った。数種類の蛍光性アゾベンゼンをアフリカツメガエルの胚の四分割球に注入したところ、分化の過程で細胞死することなく蛍光が維持され、細胞膜を透過されないことがわかった。この結果から、蛍光世アゾベンゼンが蛍光生体染色色素として利用できることがわかった。さらなる活用のためには、水に不溶な蛍光性アゾベンゼンの水溶性の向上が必須であるため、糖やイオン性官能基を導入した蛍光性アゾベンゼンを開発した。従来の蛍光性アゾベンゼンは、ペンタフルオロフェニル基に起因する疎水性によって水に不要であったものの、イオン性官能基の導入によって水溶化することがわかった。さらに、イオン性官能基の数を増すことによって水溶性が向上した。溶液中での粒径を調べた結果、水中では凝集構造をとっていることが明らかとなり、水中と有機溶媒中での溶解性の違いが凝集構造の形成に基づくことがわかった。この結果は、基礎化学的に重要であるのみならず、典型元素化学研究を生物学研究へと結びつけるものとして意義深い。
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