さまざまな刺激に応答して、化学的・構造的に可逆変換する分子は分子スイッチと呼ばれるが、環状分子にダンベル状分子が貫通したロタキサンも、コンポーネント間の相対的な位置を制御することができるため分子スイッチとなる。本研究では、pHに応答するロタキサン分子スイッチを高分子上に集積化することにより、ロタキサン素子と高分子間の機能や情報の効果的な伝達あるいは増幅による高度な機能の実現を目指し研究を行った。今年度は側鎖に酸・塩基応答性の光学活性なロタキサンを導入したポリアセチレンにおいて、主鎖と輪成分の距離をスイッチすると主鎖のらせん不斉や有効共役長の変化が可逆的かつ高速に起こることを見出した。また、光学活性な置換基として分子不斉ロタキサンを導入し、従来の不斉にない「動的不斉」が生み出す空間的かつ確率論的な不斉場を使った不斉増幅について明らかにした。さらに、より構造明確ならせん構造制御を狙って、空孔をもつ巨大な剛直らせん高分子のらせん制御についても、側鎖に光学活性な輪成分を有するロタキサン分子スイッチを導入したポリ(m-フェニレンジエチニレン)を合成し、らせん誘起が輪成分と高分子主鎖との距離を変化させることで制御できることを明らかにした。これらの成果によりロタキサンスイッチを広範な高分子構造制御へと展開することの有用性を見出した。応用展開を指向し、共重合ポリマー系におけるロタキサン分子スイッチ挙動とらせん誘起効率の関係性についても検討を行って、一定の条件を満たすコモノマーを用いれば、ロタキサン分子スイッチの挙動とらせん不斉誘起を連動させられることを見出した。
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