研究概要 |
本年度は、多孔性構造を利用したゲスト分子および機能性分子ユニット間の相互作用と電子状態の制御を目的として、多孔性錯体材料[Fe(pz)Pt(CN)_4]G(1;pz=pyrazine,G=guest molecule)を基軸化合物として研究を推進した。化合物1はHofmann型に分類される3次元多孔性骨格構造を有し、室温で約20Kのヒステリシスを伴うスピン転移を示し、ガス分子の出し入れにより構造およびスピン状態が変化する。化合物1をヨウ素蒸気に曝すと、ヨウ素がPt(II)に酸化的に付加して、[Fe(pz)Pt^<II/IV>(CN)_4(I)]が得られた。このヨウ素付加体は室温で低スピン状態を安定化した。スピン転移温度は400Kであり、ゲストフリー体1よりも100K近く上昇した。このヨウ素付加体と1の混合物を加熱すると、粒子の接触界面を介してヨウ素が1の方へ拡散移動して均一な化合物に変化することを、顕微ラマンスペクトルおよび示差熱容量分析から明らかにした。ラマンスペクトルの温度依存より、このヨウ素移動が400K以上、即ちヨウ素付加体のスピン転移が引き金となって起こることを見出し、構造と電子状態変化からその機構を検討した。このヨウ素移動を伴う固相反応利用して、ヨウ素付加体と1の混合比を変えることで、容易にヨウ素含有量を制御した化合物が得られた。この化合物のスピン転移温度とヨウ素含有量の間に直線的な相関が確認され、ヨウ素含有量によりスピン転移温度を300-400Kの間で連続的に変化させることに成功した。この現象は、PtをPdやNiに変えると観測されないため、今後は類縁体の精密構造と静電ポテンシャル解析により、ヨウ素と機能性分子ユニット間の相互作用について検討を進める。
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