強い蛍光を発する半導体量子ドットは、粒子サイズによって発光波長を制御することができるので、新しい蛍光試薬として世界的に研究や実用化が進められているが、それらの多くがカドミウムや鉛のような毒性の高い元素を含んでいる。当研究グループは、比較的毒性の低い硫化亜鉛と硫化銀インジウムの固溶体から構成される強発光性量子ドット(ZAIS量子ドット)を開発し、特性改善と応用研究を進めている。研究対象としている現象の一つが、ZAIS量子ドットの溶液にレドックス種を加えたときに見られる蛍光消光である。本研究は、ZAIS量子ドットと消光剤の相互作用を静電相互作用や配位結合によって制御し、外部刺激で蛍光on-offさせる機能の発現を目指している。 今年度はまず、量子ドットの高機能化をはかるために、ZAISをベースとした組成の多様化を試みた。その結果、硫化銀インジウムと硫化銀ガリウムの固溶体ナノ粒子において、ZAISと同様の組成による蛍光波長変化、および耐光性の向上をはかることに成功した。蛍光クエンチに関しては、種々の構造をもつ有機レドックス種をZAISナノ粒子に作用させ、静電的な相互作用や電子移動の電位差が消光度に及ぼす影響を、定常状態蛍光測定および蛍光寿命測定を用いて評価し、蛍光on-offの研究に必要な基礎データを得た。さらに、蛍光on-offに関する研究の最初の試みとして、消光剤の酸化還元状態による消光度の差を利用し、溶液中で電気化学反応を起こした際に見られる物質の拡散の様子を、電極付近の蛍光変化として顕微鏡観察することに成功した。電気化学拡散層の直接観察はほとんど例がなく、本研究で目指す機能の1つが実現できたと言える。
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